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こちらはガンダムWの話題を中心にしたブログです。 <腐女子><同人>という言葉に嫌悪感を覚える方は「見ちゃいけない。すぐにここから立ち去ったほうがいいぜ。それがあんたの身のためだ。」BYマックスウェル カトルマジ天使!くらいしか言わないかもしれません。 なんか色々ごめんなさい。 でも止まらない。 「ばかはくる!」のノリでお願いします。 ブログタイトル変えました。(元「帰還限定★かんたむw」)
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2024/05/18 (Sat) 13:37
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2010/12/31 (Fri) 11:37
SFリスペクトパラレル34。
次はトロワを幸せに!って言ってたのはどこの誰でしたっけ?

それでもいいよというお方は、「つづきはこちら」からどうぞ★

  




   終末のグロリア
 
 



 
 最後の世界大戦から百年がたち、人類が消えた大地には絶え間なく死の灰が降り続いている。
 ぶ厚い雲が太陽の光を遮断し、恒久の闇が地上の支配者だ。仮に太陽がのぞいたとしても、死の灰が漂っているため、伸ばした手の指先さえ、見通すことができないだろう。まるで神話世界の冥界のような地表に、俺は墓標のように佇んでいる。
大地と大気のサンプルは採取終了した。あとは、水のサンプルを待つだけだ。ごうごうと、闇の中を風が走る音が聞える。そこに、タッタッと新たな音が混じり始めた。予測どおりだ。スタッカート。タッタッ。すぐさま、メッゾフォルテ。求めていた雨が降りはじめた。強度の酸性雨が大地を溶かす。悲鳴をあげるように煙が発生しはじめた。
突如、目の前で光がはじけた。遅れてあたりにとどろいた音を聞いて、俺はようやく光の正体が雷だと知る。プラズマが、大気に残留する。一瞬、闇の世界に美しい光が灯った。紫の光が、魚の群れのように大気におどり、うねり、消えた。暴力的に美しい光が消えた後は、より一層の闇があった。
 
地上で見たことを報告すると、カトルは眉根を寄せて、ため息をついた。
「危なかった。いくら君でも、雷の直撃があたれば、無事ではすまないよ」
「問題ない。仮に直撃を受けても、全機能が停止する程の衝撃は受けない。予備のパーツもある」
「そういうことじゃないよ。なんていうか」
 カトルは少し言いよどみ、視線を左右にさまよわせた。かつての空の色をたたえる瞳が揺れる。俺はそれをメモリーに刻む。
「君が傷つくのは、嫌なんだ。分かる?」
「分からない。分からないが、お前の嫌がることはしない」
「ありがとう、トロワ」
 カトルが微笑んだ。俺を見つめることがなくなった瞳が、柔らかく細められる。俺はそれをメモリーに刻む。
 結局、水のサンプルは、雨が降り終わった後に採取することに決定した。この方法だと、大気や大地の成分と混ざり合い、正確なデータは採取できない。そう警告したが、カトルは小さく首を振って、いいんだ、と言った。カトルの決定に俺は従う。
 
地球にはカトルの他にも数人の人間が残った。しかし、今、カトルと連絡を取り合っている人間は一人もいない。一人、また一人と通信が途絶え、ついに最後の仲間からの連絡が途絶えて、今日で57日目になる。カトルはその仲間たちが送ってくるデータと、俺たちが分析したデータを宇宙へ届けていた。宇宙であてもない旅を続けているであろう人類たちへ。
57日前のことを思い出す。いつもそうだったが、あのときも唐突の音信不通だった。少なくとも俺にはそう思えた。しかし、カトルは違ったのかもしれない。通信が途絶えた後も特に慌てる様子は見せなかった。その日から26日後、カトルは一日中ピアノ室にこもり、レクイエムを奏でた。
俺はカトルに訊いた。
「あいつらは死んだのか」
 カトルは目を伏せ、首をかしげた。
「さあ。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。いずれにせよ、僕には確かめる術はないよ」
 カトルの人差し指が、鍵盤を左から右へと流れていく。音階の連続が生まれる。流れ終わったら、静寂が降ってきた。音に吹き飛ばされたようにカトルの顔から表情が消えていた。
「俺が確認してくる」
「駄目。行かないで」
 カトルは俺の手首を握った。ぎゅっと強く。そして取り繕うように笑って、言った。
「さみしいじゃないか」
 さみしい。俺はメモリーに記憶する。いくら記憶しても、俺が<感情>を理解する日はこないとしても。
「ひとりにしないで」
 俺はカトルに従う。俺はカトルをひとりにしない。
 
 採取したデータの分析をしていると、音が聞えてきた。
 ド・ド・ド。
 カトルのくせだ。カトルはピアノの前に座ったら、まず、ドの鍵盤を3回なでるように叩く。
 雨に似ている。まず小さな音があり、次第に音があふれてくる。地上の雨ではなく、記録映像に残っている雨だ。芽吹いたばかりの柔らかい緑の葉をぬらす春の雨だ。
「まるで祝福しているみたいだね」
 一緒に映像を見たカトルはそう呟き、まぶしいものを見るように目を細めたのを覚えている。
 地球に残ると決めたとき、唯一カトルが望んだことがピアノだった。シェルターにピアノを入れて欲しい。大きくてすごくいい音のするピアノを。要望どおり、シェルターに豪華な、ほとんどホールと言ってもいいピアノ室が造られた。白い壁に囲まれた丸い空間、その中央に立派なカトルのピアノと俺のソファがある。
「ぼくは科学者だけど、本当はピアニストになりたかったんだ。だから今日から夢が叶うね。君のために、毎日、弾いてあげるよ」
 笑顔。澄んだブルーの瞳。俺のメモリーに刻まれている。
データの分析を中断し、俺は研究室を出て、カトルの元へ向かった。地上から500キロメートル離れた地下シェルターのさらに一番奥深くへ。丸く白い空間に、春の雨のように柔らかい音が響く。その音を壊さないように、俺はそっとカトルに近付いた。以前なら、カトルは俺が部屋に姿を見せると、すぐに演奏をやめた。
「トロワ、待ってたんだ。何が聴きたい? 楽しい曲? 優しい曲? 幸福な曲?」
 俺には楽しいも優しいも幸福も分からない。だから、いつもカトルの好きな曲をリクエストした。
 だが、ここ数日は違う。カトルの横のソファに座ると、カトルがふと指をとめた。この世の音という音全てが白い壁に吸い込まれて消滅してしまったような、静寂が訪れた。ふいにおとずれた静寂にカトル本人が不安そうな顔をした。俺の方をゆっくりと振り向く。まばたきを繰り返すが、空色の目の焦点はかすかにずれたままだ。
「トロワ?」
 差し出された手を握ると、花がほころぶように微笑む。握り返された手の感触と一緒にそれを俺はメモリーに刻みつける。
 完全防備と称えられたこのシェルターにいても、カトルの体は少しずつ地上の毒に蝕まれていく。地上からじわじわとしみこんでくる毒と俺が持ち帰る毒は、餌に群がる黒い蟻のように容赦なく浸入し、カトルを損なっていく。1日、1日、カトルが消える日が近付いている。
「どうしたの、トロワ」
 カトルが俺の顔に手を添わせた。柔らかく温かいカトルの手を俺はメモリーに刻む。
「そんな悲しそうな顔をしないで」
「悲しい……」
 俺はカトルの言葉を復唱した。<悲しい>が俺には分からない。俺はアンドロイドだから、分からない。
「悲しくはない。お前は悲しいのか?」
「ううん。幸せだよ。ぼくは幸せだ。こんなにもトロワに愛してもらってるもの」
 カトルが俺の体を抱き寄せた。俺はプログラムに従い、カトルの背をあやすようになでる。全てはプログラムに従い、俺は行動する。
「だから、トロワ、もう泣かないで」
 カトルが俺の頬をなでた。困ったように微笑むカトルを俺は記憶する。俺は自分の頬に触れようとしたが、その前にカトルが素早く俺の頬に唇を寄せた。ふふ、と笑い、目を伏せたカトルの金髪が柔らかく揺れる。
「何が聴きたい? 君の好きな曲を弾くよ」
 春の日差しを模している照明が、カトルの白い頬に、まつげの繊細な影をつくる。俺は陽だまりを思い出した。
 
 シェルター暮らしにも慣れた頃、カトルが時代遅れの映写機を得意気に引っ張りだしてきたことがあった。
「トロワ、ちょっと見て!」
 子供のように瞳を輝かせてそう言いながら、壁一面に映し出したのが、大きな木の記録映像だった。木の根元から空を見上げるアングルで固定した映像は、記録映像というよりも、カメラのテスト映像と言った方が正しいような、変化の乏しい映像だった。木と光。葉、一枚一枚にろ過された光が、ほのかに黄味を帯び、光のシャワーとなって地上に降りそそいでいる。ただそれだけの映像にカトルは言葉も忘れて見入っていた。風が吹き、こずえが揺れると、光の金糸がさざなみのように揺れた。ほう、と溜め息をつくと、カトルはいきなり、映写機の角度を変え、天井に映像を映し出した。
「トロワ、この陽だまりで昼寝をしよう!」
 興奮した面持ちでカトルは主張した。
「陽だまり?」
 俺はカトルの指差す先を見る。そこは冷たく白いノリリウムの床があるだけだった。
「この映像はね、陽だまりの中から、木を映しているんだよ。だから、この映像の下にいると陽だまりにいる気分になるだろう」
「ならない。昼寝ならベッドでしろ。風邪をひく」
「なるよ!なるから、ここで昼寝をしよう!」
 俺はカトルの決定に従う。風邪をひかせないように、俺は寝室から毛布を取ってくることにした。部屋を出ようとした俺をカトルは呼び止めた。
「トロワ!トロワ!見て!」
 映写機が再び壁に映像を映し出していた。その前にカトルが立つ。カトルの白衣に木漏れ日が広がった。きらきらと輝きながら揺れる金と緑をまとったカトルは、子供のように無邪気に言った。
「あったかい」
 知っている、と、思った。お前はあったかい。
 アンドロイドに、お前は<あったかい>を教えてくれた。時間をかけて少しずつ少しずつ、俺はお前のぬくもりを覚えていった。
 
「どんな曲でもいい。お前が奏でる曲なら、俺はどんな曲でも聴きたい」
 俺の頭を温かい手がなでる。その心地よい瞬間を俺は記憶する。せめて思い出だけは手放さないように。
 
 ド・ド・ド。
 終末の世界に澄んだ音が響きわたる。俺は目を閉じた。まぶたの奥に、きらきらといつかの木漏れ日が見えた気がした。

 

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プロフィール
HN:
ケンタロー
性別:
女性
趣味:
読書
自己紹介:
再燃してかっとなってやった。後悔はしてない。

とにかくカトルが可愛すぎてたまらんしんぼうたまらん。

怖い人ではないので、お気軽に声かけてください。(中傷などは即消すけどね)

※期間限定ブログじゃなくしました。当面だらだら続けさせてください。
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