2010/03/26 (Fri) 00:10
パラレル。
デュオとカトル(とヒイロ)が人外。
3×4と2→1を目指していますが、2×4風味なので(…)苦手な方は注意。
大丈夫なら「つづきはこちら」から。
デュオとカトル(とヒイロ)が人外。
3×4と2→1を目指していますが、2×4風味なので(…)苦手な方は注意。
大丈夫なら「つづきはこちら」から。
1
冷たい銃口をこめかみに押し当てられても、少年は顔色一つ変えなかった。
少年は死刑に使われる電気椅子のような厳めしい鉄製の椅子に縛り付けてられている。体が見えないほど皮や鎖で雁字搦めにされ、その両脇に男が立っていた。彼らは頭から大きな三角形の黒い布をすっぽり被っているので、どんな姿なのか全く分からない。まるでイカの化け物のようだ。二人とも猟銃のような大きな銃を構えており、一人が少年のこみかみにそれを押し付けている。男の指はしっかりと引き金に添えられている。
「さすがにそんなもの至近距離でぶっ放されたら、頭が吹き飛んで死んじまうかもな」
まるであざ笑うような声が、少年の口から漏れた。驚くことに少年の口元には、笑みさえ浮かんでいる。
笑いかけられて、ライフルを構えている男の腕が細かく震えだした。絶対的優位にたっているにもかかわらず、男は自由を奪われている無力な少年に怯えているのだ。
「おいおい。こいつ大丈夫か?」
少年の顔に恐怖の色はない。むしろ、先ほどから自分の置かれている状況を楽しんでいるようにも見える。まるで出来の悪いマジックショウのようだと、内心で笑う。
少年は特殊な研究室に監禁されている。研究室と言うよりも拷問室と言った方が正しい。この空間は巨大な箱のような造りになっていて、その中央に少年は拘束されている。それを見下ろせるように天井近くの一角がマジックミラーになっており、その奥に監視室がある。また、部屋の周囲は暗視カメラなど様々な機器が並べられている。時折、機械の作動音が無機質な音を微かにたてていた。しかし、どこに何がおいているかは、誰にも見えない仕組みになっている。この部屋の光源は少年の真上にあるスポットライトだけだ。それも少年とそのわずかな周囲のみしか照らさないように設定されている。そのため明かりが届く範囲以外は完璧な闇が作られている。部屋の大きさすら確認できない。その光を一歩でもでれば、何も見えない闇の世界だ。
闇は人に大きな恐怖を与える。どんなに強靭な精神の持ち主でも、光の一切ない真の闇に放り込まれると、数時間も持たず狂うという。暗闇は拷問の常套手段だ。
しかし、少年は全く怖がる様子を見せない。
ステージでスポットライトを浴びる手品師のように、堂々としている。観客が少ないのが残念だ。大きな目をいたずらっぽく瞬かせる。
この完璧な闇の世界の向こうも少年には見えていた。少年はマジックミラーのある方に顔を向ける。内部の人間の姿さえ見える。下を覗き込んでいる者のうちの一人と目を合わせニコリと笑ってやった。その男が短い悲鳴をあげてのけぞるのを見て笑う。
「撃て」と短い命令が隣から聞こえてきた。本来は少年に聞えないように、イカの化け物姿の男にのみ、最小限の音で届けられている命令だ。しかし、少年は常人には拾えないはずのその音を聞き、衝撃に備えて、首に力を込めた。種も仕掛けもない驚きのショウの始まりだ。
直後、重たい銃声が部屋に響く。硝煙がスポットライトに吸い込まれるように立ち上る。
少年はがっちりと固定された体だけを残し、頭を大きくそらしていた。首が晒される。近距離から頭を撃たれ、周囲に少年の血が飛び散っている。血だけではなく、何か白いものも混じっている。普通なら頭ごと吹き飛ばす威力があるはずだ。しかし、少年の頭部は体の上に残っている。血は流しているが、頭が全く欠けていない。男は思わず足元を確認した。しかし、光源はわずかで光の当らない場所はまったく見えない。
その闇から何かが這い出てくる錯覚に襲われ、男が短く悲鳴をあげた。
「おいおい。大丈夫かよ。こいつ」
死んだはずの少年の口から嘲る様な声が漏れる。その声音は明るく、笑っているようですらある。思わず男が少年の顔を見る。口の端が上がっている。血と前髪に隠れていた少年の目が、男の方をぎょろりと見た。
「ひゃああああああ!!」
耳をつんざく絶叫をあげ、男は後ろに下がろうとした。しかし、すぐに体が闇の中に消えるのを感じ、踏みとどまる。それを見て、少年が面白そうに笑った。
少年と背後の闇が男の心を押し潰した。男は、ひきつぶされた猫のような悲鳴をあげ、頭を掻き毟った。被っていた布をかなぐり捨てる。布の下から現れたのはまだ若い男だった。血走った目に正気は残っていなかった。恐怖に操られるままに銃を構えると少年に向けた。
「やめろ!!」
少年の後ろにいたもう一人の男が悲鳴をあげた。それがその男の最後の言葉になった。乾いた銃声が部屋に響く。弾がなくなっても、男は引き金を引き続けた。カチカチとトリガーが空回る力ない音と、男の荒い息だけが空間を支配する。そこに小さな笑い声が混じる。だんだん大きくなる。何発も被弾し、血だらけになっている少年の口から漏れている。首をかしげるようにして前髪を流し、あらわになった少年の目と男の目があう。少年の口の端がつりあがる。男が断末魔の悲鳴をあげた。直後、男の体が棒のように硬直し、そのままの姿勢でバタンと倒れた。一瞬の静寂が訪れた。
ふん、と少年が鼻を鳴らした。
「賢いやり方じゃないぜ。どうするんだ?こいつらもう死んでるぜ」
少年はマジックミラーの方へ声をかける。その声はむしろ明るく、少年を取り巻く状況にそぐわない。マジックミラーの奥では数人の科学者たちが、目の前の信じ難い光景に顔色を失い震えていた。誰かが小さく呟いた。
「化け物」
突如、少年がけたたましく笑い出した。おかしくて仕方ないというように、首を振っている。汗のように血が周囲に飛び散る。もし、束縛されていなかったなら、手を叩いて全身で笑っていただろう。
「俺が化け物だって知っててアンタたちは俺に手を出したんだろう?」
少年は先ほどの小さな呟きに明らかに反応していた。研究者たちの動きが止まる。恐怖で動けない。
「一つ教えておいてやると、化け物にだって痛覚はあるんだよ。一応な。さっきからこんな物騒なものを至近距離でぶっ放しやがって、痛いんだぞ」
やれやれと少年は首を振る。人を小馬鹿にしたようなジェスチャーだが、愛嬌がある。だが、この状況ではその愛嬌が恐怖を増幅させていた。少年は親しげに言葉を続ける。
「まぁ、気持ちは分かるけどな。どうせあれだろ?人類の永遠の夢、永遠の命!当たりだろ?お前ら人間は芸がないから。一体どこで俺のこと嗅ぎつけたんだ?」
少年は小首をかしげた。血まみれでなかったら可愛らしく見えたかもしれない。
「ま、いいかそんなことは。でもよ、見ただろ。死なないって結構辛いんだぜ。見ろよ。こいつなんてぽかんとした顔しちゃってさ。」
少年が硬直したまま息絶えている男をあごで指す。男の上半身は闇の中に消えているので、男の死に顔を肉眼では確認できるはずがない。しかし、少年には見えている。
「案外、楽でいい最期だったんじゃねぇのか」
ふと、少年の顔に今までなく優しい笑顔が浮かんだ。しかし、それもすぐに消え、人を馬鹿にしたような顔に戻る。
「こいつら死刑囚か?アンタたちみたいな中途半端に頭のいい奴のやりそうなことだぜ。気が狂った途端殺しやがって。俺みたいな化け物から言わせてもらうと、アンタたちの方が余程化け物じみてるぜ。いたいけな少年をこんな目にあわせやがって」
少年が自分の体を見る。長い睫毛が頬に影を作る。スポットライトを浴びながら、死神は冥土への餞の言葉を吐き始めていた。
「こんなもんまでぶっさしやがって」
体が見えないほど様々な物で縛り上げられている少年の左胸から不自然に棒が飛び出ている。ナイフの柄だ。銀製のナイフが深々と少年の心臓に突き立てられ、そこから血が流れている。
「アンタたち科学者なのに、こんな言い伝え信じてるのか。まぁニンニクつきつけられなかっただけマシだけど。あれは臭いから」
はぁと少年が溜め息をつく。
「最期に教えておいてやるよ。本当に頭のいい人間はな、一生懸命生きてきちんと死ぬもんなんだよ。アンタたち長生きできないぜ。」
突然、監視室がけたたましいサイレンに包まれた。研究者たちが身をすくませる。一人が館内の警備室への連絡ボタンを押す。
「お騒がせしております」
すぐに返答があった。
「何事だ」
「機械の誤作動です。崖からの浸入アラームが作動しておりまして、今詳細を確認中です。なぜか担当の者と連絡がとれないので、少しお待ち下さい」
ディスプレイ越しからはのんびりとした答えが返ってきたが、監視室内部の人間は戦慄した。
「ばかな!」
ここは一般には公開されていない軍事施設だ。機密性が高いため、民間人が出入りできない島に建っている。背後の崖は、激しい波によって抉り取られており、そこをのぼることは地形的に不可能だ。そもそも常時、波が岸壁を叩きつけている。船などが迷い込んだら、大破してしまうため、誰も近づけない。人間ならば…。
「崖からの浸入などありえません。念のため確認に行っておりますので、その作業が終了次第、サイレンを消します。しばらくお待ち下さい」
ディスプレイの向こうの警備員は、鍛え上げられたプロフェッショナルだが、侵入者の可能性をほぼないものと決め付けている。
「かわいそうに。他の奴は俺みたいなのが連れ込まれていることを知らないんだな」
少年の一言に部屋中の者が硬直した。まるで、背中に氷を当てられたような気がする。
「待て!全館に全員緊急配置につくよう命令を」
慌てた研究者が全てを言い終わらない内に、いきなり施設の電力がおちた。突然の暗闇に数名が悲鳴をあげる。補助電力も動かない。部屋の内部を別電源で動いてるモニターなどの蒼白い光が照らす。
「やっぱり頭いいなあいつ」
ヒューと少年が軽快に口笛を吹いた。
「逃げるなら今だぜ。闇の中に飛び出す勇気があればの話だがな」
スピーカーから少年の声が聞える。まるで大きな鎌を携える死神の囁きだ。
「そうだ。もしお前たちの秘密の研究について教えてくれるなら、命を助けてやってもいいぜ」
少年が提案する。その声は明るく、命の交渉にしては軽すぎる口調だ。
「私たちは何も知らないんだ」誰かが悲鳴を上げた。「助けてくれ」初老の男がマジックミラーに張り付くようにして懇願した。目が血走っている。哀れな姿を見ても少年は眉一つ動かさなかった。
「役立たずに用はねえよ。死んじまえ」あっさりと吐き捨てる。
「どうせいつかは死ぬんだ。早いか遅いかの違いだろう」
研究者たちは先ほどの男のような、あられもない悲鳴をあげてドアに殺到した。叩くようにパネルを押すが、電力が落ちているため反応しない。背後のスピーカーから少年の嘲るような大笑いが聞える。
「死ぬのがそんなに怖いか?俺からすれば死なない方が怖いんだぜ。俺はアンタたちが羨ましいよ」
迫りくる絶望的な危機から逃れようと、無我夢中で動かないドアを叩く。すると開くはずのないドアが、きしんだ音をたててゆっくりと開いた。白い手がドアをこじ開けている。研究者たちは悲鳴をあげてのけぞった。ドアの隙間から一人の少年が見えた。まるで作り物の様に美しい顔の中で青い瞳が煌いている。金髪からぽたりぽたりと雫が絶えず落ちている。
強い、磯の香りがした。
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プロフィール
HN:
ケンタロー
性別:
女性
趣味:
読書
自己紹介:
再燃してかっとなってやった。後悔はしてない。
とにかくカトルが可愛すぎてたまらんしんぼうたまらん。
怖い人ではないので、お気軽に声かけてください。(中傷などは即消すけどね)
※期間限定ブログじゃなくしました。当面だらだら続けさせてください。
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