2010/03/26 (Fri) 17:25
続きです。やっと名前が出た…。
2
耳をつんざくような絶叫のあと、強化ガラスで出来ているマジックミラーが割られた。
「デュオ、大丈夫ですか?」
先ほどの金髪の少年が顔をのぞかせる。
「見れば分かるだろう!全然大丈夫じゃないぜ。全く」
少年がわざとらしく大きな溜め息をつく。
「元気そうでよかった」
安心した声とともにロープが落ちてきた。
「だから、元気じゃねぇよ。…わるかったなカトル。手間をかけた」
「気にしないで下さい」
カトルと呼ばれた少年は優しく微笑む。そのままデュオのいる方へ飛び降りた。下まで七メートル強ある上に、真の暗闇の中、着地点など全く見えない。しかし、カトルはスタンと軽い音をたて簡単に着地した。デュオに走りより、その体を縛り付けている鎖を引き千切り始めた。一本、また一本とデュオの体を拘束していたものが取り外されていく。
「カトル、これ抜いて」
「うわ。痛そうですね」
「痛いよ。あ!痛っ!もっと優しく抜けよ」
カトルはデュオの心臓を貫いていたナイフを外した。血が吹き出る。
「精一杯優しく抜きました。我慢してください」
噴出した血はあっという間に止まってしまった。
デュオの体を縛り付けていたものを全て取り去ったカトルは、足元に転がっていた銃を拾った。流れ弾に当って死んだもう一人のイカ男が持っていたものだ。慣れた手つきでそれを構え、デュオの姿を記録していた周囲の機器を一つ一つ破壊していく。その様子をデュオは弛緩した様子で眺めていた。
「お疲れですか」
「流石にな。血は流れるし、変なクスリはいれらるし。全くついてないぜ」
デュオはまだ拘束衣を着たままだ。その芋虫状態のデュオをカトルはひょいと担ぎ上げた。
「おい!これも脱がせてくれ」
デュオが不平を言う。
「すみません。ちょっと日の出まで時間がないんです。大人しくしてください」
申し訳無さそうな声で謝られ、デュオも大人しくなった。米俵のようにデュオを担いで、カトルがロープに向かって走り、跳躍した。まるで、そこにトランポリンでも置いてあったかのように高く上に跳ぶ。五メートル程跳んだ。空中で先ほど垂らしておいたロープをつかみ、するすると登り、あっという間に監視室内に入った。
カトルがあわただしくモニターなどを破壊している。 デュオはしばしその部屋に転がされた。
足元のあちらこちらに元人間だった物体が無残な姿で転がっている。室内は鮮血で真っ赤に染まっていた。引き千切られた誰かの腕が天井を指差していた。カトルらしくない無慈悲なやり方にデュオはそっと相方の顔を窺った。
「怒っているか」
「あなたが無事ならそれでいいんです」
優しい声の裏に張り詰めた感情が見え隠れしており、デュオは迂闊だった自分を少し反省した。
「血が飲みたい」
「すみません。本当に時間がギリギリなんです。我慢してください」
答えながら、カトルはデュオを大きな布で包んだ。
「おいおい。なんだこりゃ!?」
荷物のように全身をくるまれて、デュオが困惑した声を上げる。
「遮光カーテンです。こんなものしかなくて…。これで大丈夫でしょうか」
不安そうなカトルの声にデュオは苦笑いした。
「駄目だったらヒイロの二の舞だな」
「不吉なこと言わないでください」
幾重にも包まれた布越しに頭を小突かれた。
「無茶するなよ。もし駄目だったら、俺のこと置いて行っていいからな」
軽い口調でごまかしているが、デュオの声に真剣さが滲んでいる。
「大丈夫ですよ。デュオが死んだらぼくも死にます」
幾重にも包まれた布の中で、デュオは何か言おうとしたが、担ぎ上げられたので舌を噛まないように口を閉じた。カトルはデュオを担ぐと、真っ暗な通路を走り出した。
空が白くなっていく。夜明け前だ。
荒れ狂う海の中をカトルは必死で泳いでいた。デュオが囚われていた施設を飛び出してからずっと泳ぎ続けている。凶暴な潮の流れの中では浮き続けることすら困難だ。そんな海をカトルはデュオを背負いながら進んだ。しかし、流石に波の抵抗が強くて思うように進めない。
まずいな。目の端にどんどん明るくなっていく空を捉えながら、カトルは焦っていた。夜の闇が薄れていくに従い、カトルの体からどんどん力が抜けていく。歯を食いしばって必死に手足を動かすも岸はまだ見えない。今のカトルにはデュオを連れ出した際に見せた鬼のような強い力はない。荒波をものともしなかった手足も、今はまるで錆付いたオールのように軋み、遅々として先へ進めず気持ちばかりが急く。力を失い抗い難い脱力感に襲われ始めた。
世界が朝を迎えようとしていた。
焦るカトルの視界にようやく岸が見えた。あと少しだ。カトルは必死に手足を動かす。もう普通の人間程度の力しか出ない。泳いでいるのか溺れているのか分からない。岸に近付くもすぐに波に沖へと引き戻される。必死に手足をばたつかせ、波を掻き分けるが、そんなカトルをあざ笑うかのように、荒れ狂う波はカトルを岸から遠ざける。波音がうるさい。呪いの言葉を吐いているようだ。
背後の水平線に光が走った。
太陽が!!
カトルは戦慄した。最後の力を振り絞り必死で泳ぐ。
デュオが!
波間にもがくカトルの手を何者かがしっかりとつかんだ。
「ヒイロ!?」
叫んだ声は重い波音にかき消される。
強い力で岸へと引っ張られ、カトルもその力に合わせるように最後の力を出す。足が海底に触れた。夢中で水を掻き分けた。
やっとの思いで岸についたとき、すでに太陽の光が雲を照らしていた。日の出まで猶予がない。
「大丈夫か?」
見たことのない少年が自分の腕を掴んでいる。カトルはその手にすがった。
「助けてください!デュオを光の届かない所へ!早く!太陽が」
「デュオ?これか?暗がりに置けばいいのか?」
「太陽の届かない所へ!お願い早く!」太陽に食べられてしまう。
カトルのただならぬ様子に少年は短く頷き、デュオを担いで走り去った。カトルはその姿を見て、とっさに手を組んだ。ヒイロの姿が脳裏に浮かぶ。どうか、間に合って!
ビリビリと背中に痛みが走り、カトルは呻いた。よろよろと体を起こす。呼吸が荒い。立ち上がろうとするが、すぐにひざをついてしまう。だんだんと暗くなっていく視界をはっきりさせるため、軽く頭を振る。海水と一緒に残りの力も飛び散っていくようだ。
体が痛い。完全に太陽が昇ったら流石にまずい。今の自分はあまりに無防備すぎる。何か光を遮るものはないだろうか?
カトルは呻きながら周囲を見渡すが、そこには白い砂浜があるばかりだ。
いつの間にかカトルは砂に体を沈めていた。もう指一本動かせない。
暗くなっていくカトルの視界に何かが映った。閉じかけていたまぶたを必死で押し上げる。
白い世界に座り込んだヒイロがいた。
太陽の光を真っ直ぐに受けて、ヒイロが何か言っている。
聞えないよ。ヒイロ。
そこでカトルは完全に意識を手放した。
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女性
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読書
自己紹介:
再燃してかっとなってやった。後悔はしてない。
とにかくカトルが可愛すぎてたまらんしんぼうたまらん。
怖い人ではないので、お気軽に声かけてください。(中傷などは即消すけどね)
※期間限定ブログじゃなくしました。当面だらだら続けさせてください。
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