2010/03/13 (Sat) 22:28
ニューエドワーズ基地襲撃前夜のトロワとカトル。
つづきはこちらから。
プラネタリウム
冷たく狭いコックピットは、孤独な戦場であると同時に戦士の棺でもある。手の中のレバーやボタンで、相手の命を握り潰す場所でもあるが、少し反応が遅れればそれで終わりだ。絶叫は黒い箱の中で反響し、爆風とともにあたりに血の風が吹く。
その風の中で呼吸し生きてきた。
ガンダムは宇宙空間でしか練成できない。地球に降りて戦う理由など、宇宙の物体の中で死ねるというだけで、充分だった。そもそも生き続ける理由など持っていないのだから。
コツコツと、控えめに窓を叩かれ、トロワは目を開けた。同時に近くに置いてあった銃を手に取る。ヘビーアームズをのせている大型トレーラーで仮眠をとっていた。幼い頃より戦場を渡り歩いてきた彼は、柔らかいベッドよりも固い椅子のほうがよく眠れる。とくに戦闘の前夜は。
窓を見ると握りこぶしだけがそこにあった。細く白い手に見覚えがある。その手は優雅にバイオリンを奏でていた。注意深く窓の下を覗きこむと、案の定、カトル・ラバーバ・ウィナーがいた。目があうと嬉しそうにニコリと笑う。その様子は無防備そのものだ。
その風の中で呼吸し生きてきた。
ガンダムは宇宙空間でしか練成できない。地球に降りて戦う理由など、宇宙の物体の中で死ねるというだけで、充分だった。そもそも生き続ける理由など持っていないのだから。
コツコツと、控えめに窓を叩かれ、トロワは目を開けた。同時に近くに置いてあった銃を手に取る。ヘビーアームズをのせている大型トレーラーで仮眠をとっていた。幼い頃より戦場を渡り歩いてきた彼は、柔らかいベッドよりも固い椅子のほうがよく眠れる。とくに戦闘の前夜は。
窓を見ると握りこぶしだけがそこにあった。細く白い手に見覚えがある。その手は優雅にバイオリンを奏でていた。注意深く窓の下を覗きこむと、案の定、カトル・ラバーバ・ウィナーがいた。目があうと嬉しそうにニコリと笑う。その様子は無防備そのものだ。
「何のつもりだ」険を滲ませて短く問う。
「観光地図を持ってきたんだ。何も知らないで行くよりは歩きやすくなると思うよ」と笑った。先ほどの邪気のない笑顔ではなく、不敵な笑顔だった。トロワもカトルもニューエドワーズ基地を襲撃する。その基地の内部情報をカトルは持ってきたのだ。少し迷ったが、結局トロワはドアを開けた。もしこちらに攻撃を仕掛けてきたときは、やられる前にやればいいだけの話だ。ガンダム同士の戦いならともかく、生身の戦闘で負ける気はしなかった。
カトルがトレーラーに乗り込んでくる。流石にガンダムのパイロットをしているだけあって、トロワの想像以上に身軽そうな身のこなしをみせた。トロワが銃を構えているのを確認しても眉一つ動かさない。これを度胸というのか無謀というのかは分からない。
「本当にウィナー家の者だったとはな」
以前、二人は名乗りあったことがある。カトルはそのとき自らの本名を隠しもせずに名乗った。それがウィナー姓であったので、トロワはすぐに調べた。興味があったわけではない。何事もすぐに調べる癖がついている。情報を多く集めたほうが戦場では有利に働くのだ。連合がコロニー間の連絡手段を遮断していても、ウィナー家ほど力のある家であれば、その名くらいはもれきこえてくる。不正な方法で調べれば、写真など詳細なデータも手に入る。驚いたことに、目の前の少年は正真正銘ウィナー家の者で、しかも、次期当主だった。
「民間人だろう」
トロワの言葉に虚をつかれたようにカトルは目を大きくした。が、すぐにおどけたように胸を張った。
「民間人だってなんだって、宇宙を救うことが出来るなら戦うさ」不敵な笑みを浮かべる。
「君だってそうなんだろう」
「俺は任務を全うするだけだ」
「じゃあ、少なくともぼくと目的は一緒ってことだね」
屈託のない笑顔で得意そうに言われ、トロワは無言で銃を降ろした。人と話すことはあまり得意ではない。早く用事を済ませてこの空間から立ち去って欲しい気持ちが強くなった。ここは一人でいるべき空間だ。そこに二人も詰まっているのはひどく居心地が悪い。近くに感じる体温がわずらわしくてたまらない。
カトルの手の中から一筋の光が放たれ、天井に基地の見取り図が広がる。
「流石に警備が厳しい。しかもかなりいい配置だ。でも、ここは比較的手薄になっているんだ」
基地のデータを映しながら、カトルが自分の作戦を打ち明ける。トロワの予想以上にその作戦は的確で最善 策に思えた。ニューエドワーズ基地の軍備に対して、ガンダム一機の戦闘力などたかが知れているが、カトルの作戦はガンダムの高い戦闘力を最大限活かせるように組み立てられていた。それでもガンダム二機ではパイロットが生存できる確率は決して高くない。
「悪くない。OZを殲滅させて死ねればそれでいい」
「死なないよ」
間髪いれず、きっぱりとカトルが否定する。トロワは少し眉根を寄せた。
「お前の仲間が戦闘に加わっても無駄だ。この数では全滅するだけだ」
「ああ。だから、今回彼らはこの戦いに参加させない」
そう言うとカトルは小さく溜め息を吐いた。カトルのことを心の底から心配してくれているマグアナッタク隊の面々が頭をよぎる。そんな彼らを騙してカトルは一人でやってきた。その罪悪感が吐息となってこぼれおちた。そして強く思う。死ねない、と。
「ぼくたちの他にもOZに抵抗している人がいるんだ」
嬉々として弾んだ声と同時に天井に映し出されたのは世界地図だ。緑と赤でマーキングされている。
「緑色でマークしている箇所がぼくが戦闘を起こしたところだ。そして赤でマークしている箇所はぼく以外がOZに対して攻撃をしかけている箇所だ。赤色がすごく多い。まさか、君一人でこれをやったわけじゃないだろ?」
カトルがいたずらっぽく目を瞬かせた。確かに赤くマークされている部分にトロワが攻撃を仕掛けた箇所もあるが、覚えのない箇所のほうが多い。しかし、だからどうしたというのだ。トロワにはカトルが嬉しそうにしている理由が分からない。目的が一緒だからといって仲間だとは限らない。
カトルがいたずらっぽく目を瞬かせた。確かに赤くマークされている部分にトロワが攻撃を仕掛けた箇所もあるが、覚えのない箇所のほうが多い。しかし、だからどうしたというのだ。トロワにはカトルが嬉しそうにしている理由が分からない。目的が一緒だからといって仲間だとは限らない。
「だとしても仲間ではない。邪魔をするなら敵だ。もしお前が、この未確認の情報を元に戦術を立てているなら、それは戦術として破綻している」つきはなすような冷たい声が出た。
兵士は一人であるべきだ。棺の中で一人きりで戦っているのだから。苛立ちが声にのっており、そのことがまたトロワを苛立たせる。兵士にはどんな感情も必要ない。
兵士は一人であるべきだ。棺の中で一人きりで戦っているのだから。苛立ちが声にのっており、そのことがまたトロワを苛立たせる。兵士にはどんな感情も必要ない。
「彼らに頼ってなんかいないさ。言っただろ。ぼくも一人で戦う」トロワの苛立った声を意にも介さずカトルは歌うように言う。
「ならば、なぜ俺に会いにきた」
「それも言ったけど、一緒ならもっと上手くいくよ。そして彼らもきっと来てくれる」
確信に満ちた声断じるとカトルは笑った。歳相応の普通の少年が浮かべる笑顔だった。屈託がない。トロワには出来ない笑顔だ。トロワは自分の苛立ちと息苦しさの原因が分かった気がした。吸っていた空気が違う。吹かれてきた風が違う。少年の持つ空気がトロワの空間を圧迫する。太陽のにおいがする。
くだらない。そう吐き捨てたかったが、結局何も言わなかった。早く出て行って欲しかったからだ。
くだらない。そう吐き捨てたかったが、結局何も言わなかった。早く出て行って欲しかったからだ。
少年の手の中でカッシャと無機質な音がして、車内に元の闇が戻る。光が消えた後では一層暗く感じる。
「使ってくれ」カトルが小型の映写機をトロワに渡した。
トロワは思わず受け取ってしまった。手の中に銀色の機械が収まる。まだカトルの手のぬくもりを宿している。
「入れてくれてありがとう。じゃあまた明日」遊びに行く約束の確認のような気軽さでカトルが告げ、ドアに手をかけた。トロワは一瞬混乱した。こいつは分かっているのか?明日、殺しに行くことを。明日殺されるかもしれないことを。
「死んでもいいのか」
思わず口から言葉が出た。表情にこそ出さなかったが、トロワは内心かなり動揺した。無意識に体を支配されたのは生まれて初めてかもしれない。
「死ぬつもりはないよ」
静かな声で、きっぱりとカトルは言った。
トロワの中に、はっきりと怒りが生まれた。死ぬ覚悟も出来ていない奴がガンダムに乗る資格はないはずだ。そんなトロワの様子にカトルは小さく微笑む。
トロワの中に、はっきりと怒りが生まれた。死ぬ覚悟も出来ていない奴がガンダムに乗る資格はないはずだ。そんなトロワの様子にカトルは小さく微笑む。
「でも戦い抜く覚悟はある」
柔らかい微笑みを浮かべる少年はとても強そうには見えない。しかし、トロワはその目が強い光を放っていることに気付いた。強い者だけが持つ瞳の輝きがそこにある。しかし、すぐにカトルはその光を消して柔らかく微笑んだ。「おやすみ」
求めていた静寂と孤独がやっと戻ってきた。それなのにカトルの言葉がトロワの中に残っている。
戦い抜く覚悟。それは死なない意志と矛盾するものではないのか。
息苦しさにトロワは眉根を寄せた。皮膚の表面がざわつく。他人のことなど構う必要はない。そう思うのに、カトルの言葉が頭を駆けめぐる。
もう一度寝ようかと思ったが、どうせ眠れない。そう自分にいいわけをして、手の中の銀色の筒を捻る。光が小さな空間を仄かに照らす。死ぬ覚悟は出来ている。生き残りたいとも思わない。しかし、戦場で最大限の働きをすることが兵士の務めだ。基地の情報を頭に叩き込むことで、カトルの言葉を頭から追い出す。
そうだ。それでいい。
もう一度寝ようかと思ったが、どうせ眠れない。そう自分にいいわけをして、手の中の銀色の筒を捻る。光が小さな空間を仄かに照らす。死ぬ覚悟は出来ている。生き残りたいとも思わない。しかし、戦場で最大限の働きをすることが兵士の務めだ。基地の情報を頭に叩き込むことで、カトルの言葉を頭から追い出す。
そうだ。それでいい。
時代が動く前夜、真っ直ぐ伸びた光がトロワの瞳の中で揺れた。
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ケンタロー
性別:
女性
趣味:
読書
自己紹介:
再燃してかっとなってやった。後悔はしてない。
とにかくカトルが可愛すぎてたまらんしんぼうたまらん。
怖い人ではないので、お気軽に声かけてください。(中傷などは即消すけどね)
※期間限定ブログじゃなくしました。当面だらだら続けさせてください。
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