2010/02/23 (Tue) 20:32
二次創作の文です。苦手な人は注意。
カトルとトロワの戦後の話。
下の「続きはこちら」からどうぞ。 ※甘いです。
カトルとトロワの戦後の話。
下の「続きはこちら」からどうぞ。 ※甘いです。
さよならまたあした
限られた空間で、目一杯空が高い。
コロニーは秋を迎えている。
母なる大地を飛び出し、すでに二世紀近くも経過しているのに、未だに人類は地球の呼吸を忘れることが出来ず、地球のそれには遠く及ばない不出来な模造品の季節を創っている。
地上にあるもの全てがダイナミックに絡まりあう地球の季節と比べると、それを写真にとって壁に貼り付けたような無味乾燥なコロニーの季節。しかし、それは地球への尽きない憧憬だと思えば愛しさが込み上げてくる。
「ふう」
小さな溜め息をついて、カトルは窓の外から視線を引き剥がし、無理やり作業机に戻した。広々とした机の上が隠れるほど書類の山が積み重なっており、すぐにまた目を背けたくなる。
地球との足並みをそろえるためのコロニー代表者会議の準備に、連日時間をとられ、本家の仕事が溜まりにたまっている。しかし、先ほどから全く進んでいない。
カトルが顔を曇らせる。
仕事に集中しようとしても、いつの間にか、先日の会議のことを思い出してしまう。
貴重な時間と多大な労力を惜しげもなく費やしたが、今回もコロニー代表者会議は親地球派と反地球派で真っ二つに決裂した。決別しなかっただけでもよしとするかと思ってしまう程、両方の意見は平行線をたどり、その間にある深い深い溝の前でカトルは頭を抱えていた。長い間地球に抑圧されてきたコロニーが平和が訪れたからと言って、すぐに手をとりあえるはずもなく、むしろ平和になったためにタガが外れて、不満が爆発しているのが現状だ。
「宇宙で我々は生きている。今更地球と手を取り合う必要はない!」
顔を真っ赤して断じた反地球派の代表と、その後に巻き起こった大きな拍手。それが忘れられない。
でも、とカトルは目を窓の外へ転じる。
でも、コロニーはいつだって地球の姿を追いかけているのに。地球のことを忘れるなんて人類には不可能なのだ。
また溜め息をついては、仕事に戻り、戻ったのに物思いに耽り…を延々繰り返している。
「だめだ。しっかりしないと」
気を引き締めなおしたところで、ドアがノックされた。反射的に笑顔を作る。当主たるものいかなるときも堂々としていなければならない。「どうぞ」
「失礼致します」
ピシッとスーツを着こなした壮年の秘書が入ってきた。
「カトル様、お客様がお見えです。トロワ・バートン様と名乗られて」
「トロワが!?」
秘書の言葉を遮り、カトルは叫んだ。思わず立ち上がる。オフィシャルな顔はさっさと消え、年相応の笑顔を浮かべる若き当主に、秘書は内心微笑んだ。目がキラキラと輝いている。
秘書はコホンとわざとらしく咳払いをして、チラリと仕事机に視線をとばす。
カトルの動きがぴたりと止まった。笑顔も固まる。
豪華な仕事机を埋め尽くしている書類の山は今朝見たときから変化していないようだ。
「カトル様、お仕事は?」
「あはは…」
まじめな当主が、めずらしく苦笑いでごまかした。白い山に視線を落とし、気まずそうに目を伏せる。
「会議でお仕事がたまっていますからね」
気弱な姿を見せる当主にチクリと一言さしておく。
「しかし、このところ、連日働き通しでお疲れなのではないですか。差し出がましい提案ですが、本日の業務はお休みしたらいかがでしょうか」
「しかし…」
「休むことも大切なお仕事です。明日からみっちり働けば、なんとかなるでしょう」
本来はなんともならない。が、若くても目の前にいる青年は驚くほど有能なので、なんとかなる、気もする。
仕事のスケジュール管理に目を光らせるべき秘書としてあるまじき適当な考えだが、それだけ彼は若いカトルの能力を信頼していた。なにより、最近のカトルは本当に働きすぎている。少々心配していたのも事実だ。
「ありがとう。じゃあ少し時間をもらおうかな」
肩がすっと軽くなる。秘書の気遣いが嬉しくて、カトルは自然に微笑んだ。
オフホワイトで統一された広い客室で、トロワはカトルを待っていた。気取っていないが、全てが上品に仕上げられている部屋はいかにもカトルらしい。カトルだからこんな趣味の造りになったのか、こんな趣味の造りで育ったからあんな人間に育ったのか。
どちらにしても、自分とはかけ離れた人間であると今更ながら実感する。
なんとなく落ち着かず、トロワは壁際に立つ。
外に面した壁がガラス張りになっており、そこから街の様子が一望できる。
はるか眼下の車はまるでおもちゃのように小さく見える。人工太陽の光を反射してビル群の窓がキラキラと光っている。
この街を取り仕切る―正確にはここら一帯のコロニーを取り仕切る男。
カトルの肩書きは今更ながら凄い。本来なら一般人であるトロワが会える筈もない雲の上の人物なのに。人生とは不思議なものだ。戦場でガンダムのパイロットとして出会ったのだから。
「トロワ!」
トロワの思考を打ち破るように、元気な声とともにドアが勢いよく開いた。再会の喜びを隠そうともせず、満面の笑みでカトルが部屋に飛び込んできた。もし彼が犬なら、引きちぎれんばかりに尻尾を振っていることだろう。
「久しぶりだね。元気にしていたかい。あ、もしかしてまた背が伸びた?そうだ今日はどうしてここに来たんだい?」
トロワの手を握り、挨拶ももどかしいというように話し始めたカトルに苦笑する。
「当主がそんなに落ち着き無くていいのか?」
「いいんだよ。今日はオフをもらったんだ。外に出よう。案内するよ」
押し付けがましくない強引さは昔と変わらない。トロワは懐かしさに優しく目を細める。
通りを歩くと秋の風がカトルの髪を撫でた。模造の風だが、コロニー育ちの彼らにとっては愛すべき宇宙の風だ。
「本当に久しぶりだね。この前あったのは…えっと」
「約七ヶ月前だ」
「七ヶ月か」
長い。まさかそんなに長い間会っていなかったとは。
「忙しそうだな」
「至らないことが多くて。未熟者だからね。皆に助けられて何とかやっているよ」
カトルの脳裏に先日の会議の光景が甦る。
「でも、頑張らないと。やっと平和な時代になったんだから」
きらりと強い光が瞳に宿る。
トロワに会った途端、元気がわいてきた。我ながら単純だとカトルは微笑む。今ならきっとあの書類の巨塔群もさくさく切り崩してしまえるだろう。
「トロワは?」
「相変わらずだ」
相変わらず。その言葉のもつ幸福な響きにカトルは胸があたたかくなる。
トロワは変わった。
優しくなった。
態度や簡潔すぎる口調は全く変わらないのだが、彼を取り巻く空気が以前と全く違う。多分、戦場で歪められる前の、本来の彼自身を取り戻しつつあるのだろう。
過去との幸福な落差にカトルの足取りが軽くなる。
「そういえば、今回はどうしたの?仕事?観光?まさか事件じゃないよね」
「仕事だ。このコロニーに巡業で来ていた」
「来て、いた?」
なぜ過去形。
「昨日までな。つい先ほど、片づけが終了して少し時間が出来たんだ」
しれっと答える。
「じゃあ、もう行ってしまうのかい?」
ショックで少し声が大きくなってしまったカトルの様子を気にすることなくトロワはやはりあっさりとうなずく。
「ああ。今日の夕方にはこのコロニーを発つ」
絶句して歩みまで止めてしまったカトルをトロワは不思議そうに振り返る。
「どうした?」
どうしたもなにも…。
「相変わらずだね」
やっとのことでそれだけ言ってカトルは内心で溜め息をついた。落胆を隠せない。
前言撤回。君はちっとも変わっていない。
出来れば初日に会いに来て欲しかった、などと贅沢なことは言わない。一言連絡さえ、連絡さえくれたら、時間を作って会いに行ったのに。カトルが恨めしげな視線をトロワに投げる。
少し先を歩くトロワはそんなことなどつゆ知らず、スタスタと歩いている。トロワの髪を秋の風が撫で、柔らかく揺らす。
カトルは眩しいものでも見るかのように目を細めた。
なんとずるい男だ。
カトルもトロワがコロニー会議で忙殺されていたカトルを気遣って、連絡を遠慮したことくらい理解できる。しかし、トロワの来訪を知れば、1日24時間働いていようが、27時間でも働いて時間を作ってすっ飛んで行った。それくらいカトルはトロワに会いたいのだ。
それなのに、自分だけ涼しい顔して、かっこつけて。その優しさに無性に腹が立つ。
「どうした?」
いつまでも追いついてこないカトルを不審に思ったのか、トロワが振り返る。
「なんでもないよ」
結局、好きなった方が負けなのだ。
「いい街だな」
久々に聞く穏やかなトロワの声は心地よい。
「平和な街だ」
「みんなはどうしているのかな」
「あまり連絡がないがあいつらは大丈夫だ」
しばらく思い出話に夢中になりながら、この街自慢の銀杏並木を歩いた。まだ紅葉していないのが残念だ。コロニーの銀杏は地球のものと比べると、ほんのりとしか色づかない。地球の銀杏が黄色く染まっているのを初めて見たとき、カトルは思わず歓声をあげたことを思い出す。
そういえばしばらく地球にも行っていない。
「時々、すごく時間が経ったように感じてしまうんだ。あの戦争から」
ガンダムを爆破してから、実際の年月以上に時間が流れてしまったようにカトルは感じる。
「それだけ世の中が変わったということだ。そしてお前自身も」
「トロワも?」
「俺も」
時の流れは早すぎてときどき、不安になる。
心の片隅でトロワと一緒に戦場で命をかけていた当時を懐かしく思い出してしまう。明日死んでしまうかも知れず、魂のまま素直に生きていた日々。
それを懐かしむのはあまりにも傲慢で、しっかりしろと過去の自分に怒られそうだ。
ただ、あのときに比べて、カトルは臆病になってしまった自分を自覚する。
人は何かを失いながらでしか前へ進めない。常に同じではありえない。そして、失われたものは二度と取り戻せない。
ずっと離れているうちに、大切なものを失ってしまいそうでこわい。気付かぬうちに。
心の片隅でトロワと一緒に戦場で命をかけていた当時を懐かしく思い出してしまう。明日死んでしまうかも知れず、魂のまま素直に生きていた日々。
それを懐かしむのはあまりにも傲慢で、しっかりしろと過去の自分に怒られそうだ。
ただ、あのときに比べて、カトルは臆病になってしまった自分を自覚する。
人は何かを失いながらでしか前へ進めない。常に同じではありえない。そして、失われたものは二度と取り戻せない。
ずっと離れているうちに、大切なものを失ってしまいそうでこわい。気付かぬうちに。
「トロワとぼくもいつかは変わってしまうのだろうか?」
しかし、聞きたい言葉を吐き出す勇気は今のカトルにはない。
トロワはちらりと空を見る。天空が茜色に染まり始めている。
「もう時間だ」
「そうか」
昔の自分なら寂しいと素直に告げるだろうか。カトルは想像する。
いつの間にか感傷的になっている自分をカトルは笑った。
「今度会えるのは、春かな?」
反対に皮肉が口をつく。
「いや、夏だろう。そんな短期間に何度も巡業できない。サーカスは飽きられたら終わりだからな。ただ今回は反応がよかったからまた来るとは思う。しかし、もしかすると一年後になるかもしれないな」
相変わらずしれっと答える。
「さみしいな」
あまりにも冷たい答えに、一人でくよくよするのも馬鹿らしくなってカトルの口から言いたかった言葉が転がり落ちる。切実さの代わりに呆れが滲んだが。
なんてひどい男を好きになってしまったのだとカトルは自分で自分をかわいそうに思った。
「冗談だ。そんな顔するな」
優しげに目を細めてトロワが笑った。
「またすぐ会いに来る」
なんてひどい男を自分は…。
まったく反則だ。
悔しいから今度は自分の方からこっそり会いに行ってやろうとカトルは決意する。どうやってトロワに自分のような情けない思いをさせてやろうか。
次に会うときは。
しばし別れる二人の間を、やさしい風がそっと吹きぬけた。
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性別:
女性
趣味:
読書
自己紹介:
再燃してかっとなってやった。後悔はしてない。
とにかくカトルが可愛すぎてたまらんしんぼうたまらん。
怖い人ではないので、お気軽に声かけてください。(中傷などは即消すけどね)
※期間限定ブログじゃなくしました。当面だらだら続けさせてください。
とにかくカトルが可愛すぎてたまらんしんぼうたまらん。
怖い人ではないので、お気軽に声かけてください。(中傷などは即消すけどね)
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